意識を保っていられる時間の方が、もう短い。昨日もたくさん血を吐いた。旦那さまは本当に甲斐甲斐しく、私の面倒を見てくださる。血を吐く度に汚れた着物を変えて、私が寒くないように毛布を掛けて暖めてくれる。どうしてと聞く事も、もう声が出ないから出来ない。ただひたすらに、息をして血を吐いて、眠るだけ。
耳がよく聞こえない。目が見えない。ここは何処だろう。旦那さまは。…………音様は。
旦那さまが帰ってきた音がする。ゆっくりと、私に近寄るような気配がある。頭を撫でられて、声を掛けられたような気がする。よく分からないけれど頷いたら、水差しの水を口に含まれた。水を飲むかどうか聞かれたらしい。
飲み下そうとしたけれど、咳き込んでほとんど吐き出してしまう。口許を拭われて、それから暫くの間、旦那さまが私の顔を見ている気がした。私もゆっくり目を開けた。鮮明ではなかったけれど、そこには確かに旦那さまがいた。
「…………ぁ、……、」
何を呟いたのか、私にも分からなかった。ただ、何かを口にした。そうしたら、旦那さまの硬い手が私の手を握った。否、私の手に、何かを握らせた。これは、これは、もしかして。
あの、銀簪…………?
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