暁の現

まだ朝日も見ない東雲の頃に、時々夢を見る。まだ私が普通の女だった頃の夢。優しい両親、何不自由ない暮らし、幸せな希望に満ちた将来。今は失ってしまったそれを思い返して私は一体何がしたいのだろう。悲しみに浸りたいのか、逆境に対する糧にしたいのか、或いはもっと別の意味があるのか。今はもう失ってしまったそれらの思い出は私を傷付け蝕んでいくような気がした。それでも一つだけ抱えている柔らかな記憶があった。生身の肌のものではない温かな温度は私には過ぎたものだとは分かっている。それでも私はあの日売られていく私に触れてくれたあの少年の事を時に思い出す。お勤めが終わって解放された束の間味わう自由の時に。夜と朝の継ぎ目に、名前も知らない私の救い主の事を。

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