夢を見た。それは夢であって夢の中ではなかった。それが現実に起こったのだという事を、私は夢現に気付いていた。きっと、彼の話を聞いたからだ。
夢の中で、私は泣きながら歩いていた。寂しい寂しいと、この身の不幸を一心に嘆いていた。そうしたら、道の向こうから同じような人が歩いてきた。でもその人は泣いてなんかいなかった。それでもずっと泣き出したいくらい寂しかったんだろう事は窺えた。
出会った私たちは一緒に歩く事になった。同じ道を同じように同じ速度で。
歩きながら色々な話をした。好きな物の話、嫌いな物の話。時には擦れ違った事もあった。でも、その人の隣にいた時間は、私の中で確かに大切な物になっていた。
そして一人が二人になったら、私は寂しくなくなっていた。寂しくなくなって、笑顔になった。だから今度は、その人に沢山泣いて欲しいと思った。沢山泣いて、そして、最後には笑顔になって欲しいと思った。
顔は思い出せない。名前もそうだ。でも、確かに大切な想いを私は持っていた。この感情を大切に持っていたいと思った。もう二度と忘れないように。
そしてこの旅の果てに、その人がいる。その確信を持って、私は閉じていた目蓋を押し上げた。朝が来た。出発だ。
***
初見で印象的だったのは強い光を湛えた琥珀色の瞳だった。だが俺はそれどころではなくて、次にその目を見るまでその印象を忘れてしまっていた。
二回目に会った時、アイツは俺の事を覚えていなくて酷く苛立った事を覚えている。だからといって別にどうしたい訳でもなかった。ただ、俺が師団から抜け出す手助けをしてくれた男の依頼くらいは達成してやろうと思って近付いただけだった。結局小刀を返してやるまでにかなり時間を要した訳だが。
ともかく何度か接触を重ねる内に、自分が随分と彼女に気を許している事に気付いた。彼女の何がそうさせたのかは分からない。だが、物心付いた時から感じていた理不尽な怒りが、彼女といる時だけは和らいだ。呼吸をするのが楽になって、その存在を誰にも渡したくなくなった。
己の目的すら忘れて彼女と共に全てやり直したいと夢想する俺の滑稽さを、彼女は知らないだろう。俺を祝福すると言ったその瞳のまろやかな温もりは、俺の人生には全く縁遠い物だった。
嗚呼、朝が来る。俺は感じているのだ。彼女が、ナマエがすぐ近くにいると。早く追い付いて来い。そしてその手を掴んだならば、もうきっと離す事はないだろう。たとえ、行き着く先が地獄でも。
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