そして歩き出す

朝起きて、外が晴れていると嬉しい。山に入って小動物や山菜を獲れるから。昼になったら自然の恵みに感謝して食事をする。夜になったら星の瞬きを聴きながら、明日を想う。

あれから半年が経った。

負った傷も大分癒えて、私たちは新しい生活を始めた。

隣には大切な人がいて、うしなった親友や仲間たちの事を想うと寂しいけれどそれでもあの選択が正しかった事を知っている。何度同じ場面に遭っても、私はそれを選択しただろう。

私たちは同じ所に堕ちて、そしてお互いにかけがえのない存在となった。

さあ、今日も二人で山に入ろう。自然の恵みに感謝して、生命を繋ごう。

***

「ただいまあ」

「……はあ」

やっと見つけた定住の地に、簡易な小屋を建て二人は暮らしていた。彼と彼女、どちらの故郷にも少し似ていて、少し似ていない。そこに彼らを知る者は誰もいない。

ナマエは取ってきた山菜を土間の隅に広げて見分を始める。尾形は疲れたようにため息を吐くと上り口に腰を下ろした。いつもより覇気の無い尾形にナマエは振り返る。

「疲れた?」

「体力がかなり落ちてる。本調子に戻るにはもう少し掛かるかもな」

「だからついてこなくて良いって言ったじゃない」

呆れたように肩を竦めたナマエは広げた山菜をそのままに尾形に近寄りその隣に腰を下ろした。その細い指があの時の傷跡のある場所を服の上からなぞる。

「死んだって、おかしくなかったんだからね」

あの日、アシパに毒矢で射抜かれてナマエと共に列車から落ちた尾形を必死で看病したのは他の誰でもないナマエだ。ナマエの献身的な看護と尾形自身の生への執着のおかげか、何度も何度も峠を越えて、漸く尾形がまともに床から出られるようになったのはついひと月前の事である。

「死なねえよ。約束しただろ。一緒に暮らすって」

服の上から傷跡をなぞるナマエの手を取って握る尾形の隻眼をナマエは見た。片目なのに強いその光は、彼の本心を見せた。紛う事なき情愛を。

「そうだよね。約束した。だから私も頑張れた」

微笑むナマエの唇を自然な動作で奪った尾形は、そのままの距離からナマエの身体を抱く。

「結局、金塊は得られなかった訳だが、……まあ、もう良いか」

「良いの?」

耳許で落とされる声に擽ったそうに身を捩らせるナマエを押し留めながら尾形は鼻で笑う。こんなに落ち着いた気分は生まれて初めてだと思った。

「もう、良い。どうでも良い。お前がいればそれで」

「……っ、おが、た……」

ナマエ顔が泣き出しそうに歪むのが尾形には見えた。でもそれは宥める必要の無い感情だ。ぽろぽろと溢れてナマエの白い頬を濡らす雫を尾形は優しく拭った。

「私も、何もいらない。尾形と一緒なら、それだけで幸せだから」

「二人仲良く地獄行きでもか?」

いつか言った冗談めいた言葉を再び吐いた。ナマエは困ったように笑って頷いた。

「二人で折半だから、きっと大丈夫」

笑った尾形の表情が酷く人間らしい微笑みだった事を知っているのは、彼女しかいない。二人にとっては、それで良かった。

***

朝起きて、外が晴れていると嬉しい。山に入って小動物や山菜を獲れるから。昼になったら自然の恵みに感謝して食事をする。夜になったら星の瞬きを聴きながら、明日を想う。

あれから半年が経った。

負った傷も大分癒えて、私たちは新しい生活を始めた。

隣には大切な人がいて、うしなった親友の事を想うと寂しいけれどそれでもあの選択が正しかった事を知っている。何度同じ場面に遭っても、私はそれを選択しただろう。

私たちは同じ所に堕ちて、そしてお互いにかけがえのない存在となった。

さあ、今日も二人で山に入ろう。自然の恵みに感謝して、生命を繋ごう。

私たちの未来を、歩き出そう。

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