夏太郎は挟まれていた。何に?小舅と義弟の間に!
「…………俺、お前の事嫌い。すぐナマエを泣かせるから」
「奇遇だな。俺もお前の事はそんなに好きじゃねえ。それに俺はアイツの事、泣かせた覚えはねえ」
「嘘だ!ナマエから色々聞いてるからな!ナマエがお前の事好きじゃなかったら、お前なんかすぐに殺してる。ナマエに感謝しろよな」
「じゃあお前もアイツに感謝だな。俺もお前がナマエの兄貴じゃなかったら、背中から撃ち殺してるしな」
「……いつか殺してやるから覚悟してろ」
「お前も背後には気を付けろよ」
「ねえ、俺を挟むの止めてくれない!?」
「なんだいたのか、夏太郎」
挑発的に髪を掻き上げて、口端を持ち上げるエコリアチは正に美男子を体現したようだ。夏太郎ももし、彼がその辺の道にいて、自分とは全く関わりの無い所でにこやかにしていたら見惚れるかも知れない。でも、それとこれとは話が別なのだ。
ピリついた(将来の)小舅と(将来の)義弟が正に一触即発の状態で、いつ爆発してもおかしくない所に何故か緩衝帯のように間に設置され(ちなみに設置したのは永倉だ。単純に「喧しい」との事である)、最近胃痛がマシマシである。
「オメーらまたやってんのか」
「懲りないな」
こいこいにも飽きたのか、門倉とキラウシも集まってくる。こうなるともう、いつもの賑やかしである。
「俺、こいつの事嫌い。まだ、カドクラの方が好き」
「俺を比較対象に使うんじゃねえ。大体お前、網走で俺の事殺そうとしただろうが」
「俺は命令に忠実なだけだよ。ていうか、殺そうとしたのは宇佐美の方。それで思い出したけど、尾形、お前網走でナマエを殺そうとしたんだって?万死に値するな。今から耳削いでやるから、ちょっと表出ろ??」
「カドクラ……余計な事を……。おい、エコリアチ、やめろ!」
キラウシと夏太郎に止められて、エコリアチは何とか収まったようだ。憮然とした表情ではあるが、幾分か丸い雰囲気を醸し出している。
「あーあ、いつになったらナマエに会えるんだろう。次にナマエに会ったらこんな馬鹿げた争奪戦からは降りるように言わないと」
「エコリアチは、本当にナマエちゃんの事が好きなんだな」
「ていうか、お前と嬢ちゃんってフンイキあんまり似てねえな」
エコリアチをしげしげと見つめながら門倉が呟く。その視線を鬱陶しそうに払いながらも、エコリアチは微笑んだ。
「そりゃ、俺とナマエは全然違うからな。ナマエはほんとに心が綺麗なんだ。西洋の、天使みたいな子だよ」
緩く結われた伸びた髪を弄びながら、エコリアチは美しく微笑む。その目の奥に、ナマエの姿がありありと浮かんでいるのだろう事は、全員想像に難く無い。
「で、尾形は将来の義弟の訳か」
「あ、バカ!門倉!」
「!!!!」
この場合、つい、という言葉が当てはまるのだろうか。門倉が何の気無しに溢したこの言葉に如実に反応したのはエコリアチだけでは無い。
尾形も尾形でエコリアチを挑発するようににやにやと嫌な笑いを見せている。
「絶対あり得ない!絶対嫌だ、絶対!俺の姻戚に尾形がいるなんて、あり得ない!」
「俺もこんな義兄は嫌だけどな。なぁ、オニーサン」
「…………!やめろ、やめろっ!ナマエを想像するんじゃない!殺す、今すぐ殺す!挽肉にしてやるっ!」
いきり立つエコリアチをキラウシと夏太郎が必死に押さえつける。それを少し離れた場所から永倉が呆れたような冷ややかな視線を向ける。土方も土方で面白がっているのか、好奇の視線を向けている。
「今すぐにでも刀の錆にしてやりたい……」
「あの青年、なかなか面白いな。…………源さんかと思いきや、総司やも知れん」
「まさか!何を考えておられるのです!あんなカスが総司などと……!」
不本意そうに顔を歪め反発する永倉を尻目に土方は笑みを深める。視線の先のエコリアチたちの向こうに、彼が何を見ているのか永倉には分かる気がした。
「……ずいぶん遠くまで来たものだ。沢山のものを置いて」
「…………思い返せば、皆、生き急いでおりましたなあ」
「何話してるんだ?それから土方ニシパは俺にして欲しい事はあるか?」
追憶の余韻を見事に消し飛ばしていくエコリアチに土方は苦笑を隠せない。その輝きを秘めた瞳が、かつての仲間の瞳に見えたとは言えずに。
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