白い手

なまえ、ねえさん。

そう呼びなさいとバアチャンに言われた。夕食は俺が撃った鳥で作られた鳥鍋であった。内心で渦巻くほっとしたような期待外れのような感情を持て余しながら機械的に飯を咀嚼する俺にバアチャンは言った。

これからはなまえねえさんに遊んでもらいなさい、と。

分かっていた。俺の成長にバアチャンが満足についていけないことを心苦しく思っていることくらい、バアチャンは全て俺のことを思ってあのひとを呼んでくれたことくらい。それでも俺はどこかでバアチャンに捨てられたと思った。俺のことを持て余しているからあのひとに俺を預けるのだと。

俺はもう、いりませんか

そう聞こうとして口を開いたけれど鍋の中の鳥皮が喉に引っかかって、吐き出されたのは引き攣ったような咳だけだった。苦笑して俺の背を擦るバアチャンの皺だらけの手が俺には鉛のように重かった。

翌日からなまえさんは俺の家にやって来た。申し訳なさそうにするバアチャンに朗らかに笑う彼女を俺は家の奥からずっと見ていた。バアチャンが俺を呼んでも俺はどうにも足が重く一歩を踏み出せない。困ったように俺の顔となまえさんの顔を見比べるバアチャンになまえさんは微笑むとバアチャンに耳打ちする。

「百之助ちゃん、今日は私とお祖母さまと遊びましょう」

歌うように両手を身体の前で合わせて微笑むなまえさんは俺の感情を知っていたのだろうか。その日俺はなまえさんとバアチャンと一緒にまるで女のように折り紙を折ったり絵を描いたりして過ごした。なまえさんは俺の作った紙の鶴や風船を大袈裟に褒め、手習いの端切れの紙で俺とバアチャンの似顔絵を描いてくれた。

「百之助ちゃんは手先が器用なのね」

バアチャンが夕食の準備として俺たちから離れた後、二人きりになった時、なまえさんはくすくすと楽しそうに俺に微笑みかけた。霞草が揺れるようなその小さな微笑みに俺は憮然と頷く。思えばなまえさんとまだ一度も言葉は交わしていなかった。

「……お祖母さまは百之助ちゃんのことが心配だっただけなのよ」

静かな声と白い手が、俺の頭を撫でる。俺はまだ、なまえさんの顔を見れずにいた。

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