紫陽花の咲くころに

篠突く雨が庭の草花を激しく打つ。雨粒に打たれ揺れる淡い色の花は正しくは萼が密集して出来たものであると教えてくれたのは「あのひと」であった。俺の手をひいて、畦道を歩くそのひとは時折俺の方を振り向いては微笑み、微笑んでは前を見た。俺はどうにもそのひとの顔を見ることが出来ず俯いたまま、時偶に視線が絡んだのを慌てて逸らしたものだった。眺める間にも雨粒に打たれて成す術なく剥がれ落ちていく萼が地面を醜く汚す。紫陽花の咲くころに俺はいつも想い出す。「百之助ちゃん」と俺を呼ぶ柔らかな声と白い手の温もりを、俺を捨てたなまえねえさんへの憎しみを。

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