誰もが羨むような何か

幼い頃、誰もが羨むような何かを持っていたらって、ずっと願ってた。何でも良いから何か一つ、絶対に誰にも負けない素敵な才能があったらって。容姿でも勉強でも、運動でも何でも良かった。そうしたら、そうしたら私だって。

佐一兄さんに見てもらえたかもしれないのに。

都会じゃない、かと言って丸きり田舎って言う程田舎でもない中途半端な平凡な村で私は生まれた。平凡な両親に平凡な兄。毎日同じ日々。でも私が五歳を数えた頃、兄さんには二人の友達が出来た。

一人目は佐一兄さん。兄さんより強くて賢くて恰好良い。兄さんの妹でしかない私にも優しくて、佐一兄さんが本当のお兄さんだったらなあって思った。最初の内だけだけど。

二人目は梅子お姉さん。やっぱり兄さんより優しくて、可愛くてこの世のありとあらゆる素敵な物を詰め込んだみたいな女の子。私を本当の妹みたいに扱ってくれて梅子お姉さんが本当のお姉さんだったらなあって思った。これも最初の内だけだけど。

兄さんと佐一兄さんと梅子お姉さんは大親友だった。でも私はそうじゃない。私はあくまで兄さんのおまけであの素敵な三人の仲を乱す存在だと、私は三人を見た時から知っていた。だからずっと、遠くから見ていた。

三人が遊んだり話したり、笑ったりするのをずっと遠くから見ていた。良いなあ羨ましいなあって、ずっと遠くから。

月日が経って私が少し大きくなって三人がもっと大人になっても、私はずっと遠くだった。遠くで笑う三人が何を話しているんだろうって想像しながら、両親の言う事を聞いていた。もうすぐ縁談が来るよってその言葉を聞きながら。

私は本当は嫌だったのに。中身も良く知らないような男の許に、子を成すという使命それだけを背負って向かわされるのなんて。だって本当は。

佐一兄さんが好きだった。だから佐一兄さんが本当の兄さんじゃなくて良かった。でも佐一兄さんには私じゃないんだよね。だから梅子お姉さんが本当のお姉さんじゃなくて良かった。私は誰かに選ばれる程特別じゃないって事、出来れば生まれた最初に知りたかった。そしたら。

幼い頃、誰もが羨むような何かを持っていたらって、ずっと願ってた。何でも良いから何か一つ、絶対に誰にも負けない素敵な才能があったらって。容姿でも勉強でも、運動でも何でも良かった。そうしたら、そうしたら私だって。

大嫌いなものばかりの世界で少しは生きてるって実感出来たのかな。

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