「わ、あ……」
ナマエ様が目を丸くしているのがとても微笑ましい。あちらこちらに視線をやるナマエ様は寄せては返す波に静かに手を浸す。
「どうして部屋の中に海があるの?触った感じも、まるで本物だ」
「ナマエ様を幼くしたのと同じ系統の物ですよ。この館には『不思議な力』を持った者が沢山おります」
ナマエ様用のグラスを取り出し、少し迷ってからレモネードのボトルを選ぶ。ホットミルクの前の繋ぎのつもりだったが、ナマエ様はいやに瞳を輝かせた。
「……飲んで良いの?」
「お口に合えば良いのですが」
「ありがとう。レモネード、初めて飲む」
グラスを両手で持ってそっと口を付けたナマエ様ははにかむように笑った。
「甘いけど、おいしい」
「それは、ようございました」
自分の分の飲み物も用意して、ナマエ様の顔が見える位置取りで座る。ナマエ様も私が彼を見た事に気付いたのか、その赤色の目に私を映す。
「ナマエ様が幼くなった理由は存じております。犯人にも心当たりがある」
「……その、幼くなったっていうのがよく分からない。僕にはあなたが言うところの大人だった時の記憶は無いし、」
私の言う事を全く信じない訳ではない、だが完全に信じ切るのも難しいといった顔だ。暫し思案して、それからアトゥムを出現させてみる。
「……!」
思った通りナマエ様はそれを見て目で追った。困惑するような顔に安心させるように笑んで見せてからそれを仕舞う。
「今、変なのが」
「私にもこのように『不思議な力』がございます。そしてナマエ様をこのような状態にした男にも同じように能力が。すぐに探してスタンド効果を解除させて参ります故」
善は急げと立ち上がるとナマエ様は唇を尖らせて不本意そうな顔をした。その顔の意図が良く分からず首を傾げれば、彼は上目に私を見つめた。感情を波立たせないナマエ様にしては随分と不服そうな顔だ。
「………………」
「あ、の、ナマエ様?」
浮かせた腰を一度椅子に戻して座り直す。ナマエ様は幼いながらも形の良い手を握ったり開いたりしながら言葉を探しているようだ。
「…………それって、」
大きな目が恥ずかしそうに逸らされたまま、ナマエ様は下唇を少しだけ噛んだ。彼が言い難い事を言う時の癖だ。子供の頃からの物だったのかとこんな時なのに「今」との共通点に心臓を握られた気持ちになる。
「それって、あなた一人で行かないと駄目なの?」
「……と、言いますと」
「僕を一人で此処に残すの、って聞いてる」
白い頬が少しだけ血色良く色付いている。これまでは私がナマエ様の見えない本心に翻弄されてばかりだったけれど、幼い頃のナマエ様は幾分素直に感情を吐露してくださるようだ。
「…………共に捜しに行かれますか?」
「一人でいるよりは良いかも……」
怖々と頷くナマエ様に、笑みを深めて手を差し出す。ナマエ様が目を瞬かせて、それから笑みと無表情のちょうど中間のような曖昧な表情をした。
「では参りましょう。危険ですから、私からは決して離れないでくださいませ」
我が手に重ねられたナマエ様の手は少しだけ震えていた。落ち着かせるように確りと握る。
「大丈夫です。必ずお守りいたしますので」
「別に、怖くないよ」
強がりを吐く様子は本当に可愛らしい。もし許されるならばもっと一緒に時間を過ごしたかったなんて思ったり……、などと良からぬ想像をしていたら中々アレッシーが見つからず、反対に館の面子にナマエ様が見つかり大騒動になったのはまた別の話だ。