クリスマス燃やし尽くす

12月も漸く二週目が過ぎ、街並みもいよいよクリスマスムード一色となってきた頃、佐久間は自分の直属の上司である結城から呼び出しを受けた。
それはD課に仕事が下りてきたことを示すサインであり、佐久間に少なからず憂鬱の種を蒔く。
なぜならD課に赴任してからこれ迄にも何度か結城から呼び出しを受けて仕事を任されてきたわけだが、その度に面倒なことに巻き込まれてやれ始末書だの何だのを書かされたり、なぜか部下全員の夕食を奢らされたりといった事態になり、佐久間の胃痛は確実に増していたからだ。

D課に来てから本当にロクなことがない。
そうは思っていても悲しいかな、警察は絶対的な縦社会だ。佐久間に呼び出しを拒否する権限はないのである。

結城の許を訪れた佐久間の目の前に分厚いファイルが放り投げられる。
いつもの通り30秒で目を通すよう指示され、本当にカウントダウンが始まる。
慌てて資料に目を通す佐久間は、ある項目に目を奪われた。

「こ、これは……!」

一方その頃のD課では……

ふとした会話からクリスマスの話題で盛り上がっていた。主に神永が。嬉々としてすぐ傍にいたなまえとクリスマスの予定について話している。主に神永が。

「なまえは?クリスマスの予定、あんの?」

「え?私は結城課長から頂いた仕事を片付けないといけないので本庁に泊まりますよ」

話を振られ、さも当然と言い返したなまえはD課の紅一点だった。勿論他のD課課員と同様扱いづらさは折り紙つきだ。
なまえの場合は能力は申し分ないのだが、いかんせんD課課長である結城の命令しか聞こうとしない。元々は捜査二課にいたらしかったが、馴致不能により飛ばされる形でD課課員となった。

「はあ?クリスマスなのに?仮にもお前若い女の子がそんな色気なくてどーすんの?誰か紹介してやろうか?」

「余計なお世話ですよ。それに私だって誘われはしました。お断りしただけです」

この世の終わりのような顔をする神永を一刀両断するなまえにも自負心はあるのか普段なら受け流す神永の煽りに真っ向から反論する。それを黙って聞いていないのが田崎だった。

「はあ?誰だそれ、聞いてないぞ」

「言ってないですもの。あの人です、一課の風戸さんですよ」

「………………、はあああ!?風戸!?あの、風戸か!?」

一瞬の沈黙を波多野が破る。他の面子は口笛を吹いて冷やかしたり、我関せずとテレビを見ていたり反応は様々だ。その中でも三好はいつものようにナルシスティックに髪をかき上げた後、身を乗り出すようにしてなまえの言うところの尋問体勢に入る。

「波多野、うるさい。……それで、なんで断ったわけ?」

「皆さん食いつきますね……。確かに風戸さんは一課のエースでそんな方から誘われるなんて光栄なことかもしれませんが、結城課長に頂いた仕事以上に優先すべきことなんてありますか?普通に考えてあるわけないじゃないですか。……それに、あの人と飲んだら最後薬か何かで眠らされて高い崖から突き落とされそうですよね」

「あはは!何ですか、それ」

呆れたように肩を竦め、何も言わない三好とは対照的に珍しく声を上げて笑うのは実井だ。彼と風戸は特に仲が悪く、その度合いはスピリチュアル系を信じないなまえでも前世で何か因縁があったと予測するレベルだ。具体的に言うとしたら例えば大事な任務の途中で出し抜かれたとか、そういった。
とにかく普段穏和な実井は風戸関連というか捜査一課のこととなると、途端に腹黒い一面を垣間見せる。
しかしなまえはもう慣れっこなので、あまり言及はせずに話を進めた。

「皆さんのご予定は?」

「俺は親戚の子のサンタクロースになる予定。写真見る?エマっていってさー、可愛いんだよねー」

ゴゴナンデスが終わったのか、話の輪に入ってきた甘利の手には写真が握られている。写真には2歳くらいの女の子が弾けるような笑顔で写っていた。

「甘利おじさん素敵ですね。あとエマちゃん可愛いですね」

「でしょ?イルカが好きなんだ」

ぱちんとウインクする甘利は見間違いようがないほど優しそうな顔をしていて、それは傍で見ているなまえでさえ幸せになるものだった。

「俺はとてつもなく、特別な、イベ……会合が……」

「あ、例のクリスマスライブ当たったんですか?おめでとうございます」

神妙な面持ちの福本にハイタッチするなまえのスマホからラインの着信音がした。小田切からだ。
いそいそとスマホを取り出して通知を確認すると。

『クリスマスとか爆発しろwww』

「あはは、小田切さんそんなこと言ってると今に本当に事件が起きて……」

突然D課のドアが音を立てて開けられた。立っていたのは佐久間で、なまえを始め皆嫌な予感を隠せない。

「お前たち、事件だぞ!」

「……ほらぁー」

口は災いの元。がっくりと項垂れたのはなまえだけではない。