彼からの手紙 四

ナマエちゃんへ

手紙ありがとう。だいぶ涼しくなったから、ナマエちゃんが風邪を引いていないか心配です。それから、懲罰房は無事に出られました。心配かけてごめんね。

お花の種もありがとう。せっかく貰ったのに枯らしちゃ可哀想だから、看守に聞いたらなんと植木鉢を貸して貰える事になりました!まあ、とは言っても普段は看守の詰め所に保管されてて水やりの時間だけ俺の所に持って来てもらうんだけどね……。でも定期的に水を遣ってたらやっぱり愛着が湧くんだ。

それで思ったんだけどね。定期的に俺が世話をしないとダメになってしまう物を持つのはなんだかとても怖いね。

俺は今まで独りで生きて来たしこれからも独りで死んで行くと思っていたから、「俺のせいで」死んでしまう物なんて身の回りにはいなかったんだ。それは本当に自由で、俺はそれだって悪くないと思ってた。

でも今、実際にこの花(ところで金鳳花ってなんて読むの?今度教えてね)の世話を始めるようになって、例えば俺に何かあってこの花に一週間水を遣れなかったら、この花は死んでしまうのかと思ったら今は何だかそれが怖い。せっかくナマエちゃんが俺の事を想ってしてくれた事が無くなるのはとても怖いんだね。

だから俺は今、この花を死なせないために本当に模範囚のような振る舞いをしています。だって懲罰房に入れられたら花に水が遣れなくなっちゃうからさ。だからナマエちゃんから種をもらってから、懲罰房には行ってないよ。

昨日芽が出たんだよ。下手くそだけど描いておくね。ナマエちゃんの方の花の成長も教えてくれると嬉しいな。俺も観察日記つけるからさ。

白石由竹