遊園地行こうぜ

私がずっと前から行きたがっていた遊園地に行こうと誘ってきたのは神永からだった。
珍しいこともあると、何を企んでいるのか邪推すれば、彼は照れたように目を逸らして「次の休みは付き合ってから一年だろ」と言った。
そういえばそうだったけれど、私も神永も別にお互い初めての恋人ではないし、そんな浮かれた気分にもならなかったからスルーする気でいた私は完全に裏をかかれた気分だった。

「あ、そうだっけ。ごめん、スルーする気満々だった」

「はあ!?お前ふざけんなよ!照れた俺が馬鹿みてーじゃんか!」

特に何も考えずにそういった私に神永は明らかに気が削がれたようだった。へそを曲げたらしく、ふくれっ面をしてそっぽすら向いている。

「ごめんて。でも嬉しい。私の言った事覚えててくれて。私も行きたい」

流石にからかいすぎたかと、ご機嫌を取るように彼の手を取って上目遣いで笑った。
神永は私のこの顔が好きなのだ。
思った通り、彼は拗ねたように私を睨んだ後、「予定空けとけよ」と念を押した。

私は微笑んで頷いたが内心おかしくて笑いそうになってしまった。
いつもデートでフレンチだの夜景だのと気取っている神永が。
記念日になると更に気取ったデートプランを持ち出してくるあの神永が。
私が行きたいと言ったただの遊園地のことを覚えていてくれただけではなく、実際に(それも記念日に)連れて行ってくれるなんて。
当日は気合い入れていこう、と柄にもなく張り切ってしまった。

―*―*―*―

その日は前日の天気予報が嘘みたいに晴れ渡り、神永と二人で「やっぱりあの気象予報士当たらないね」と笑い合った。
神永は見た目によらず安全運転を心がける人だったから、乗り物にあまり強くない私でも神永の運転だったらいつまでも乗っていられた。

でも神永が駐車するときにいつぞや流行った助手席に手をかけてバックさせているのを見て鼻で笑ってしまった。
いつもはミラーだけでバックできる癖に。

「狙いすぎだよ。そんなベタ中のベタにもう女子は引っかからないよ!」

「何言ってんだよ。これが好きっていう子も中にはいるんだぜ?」

「残念だねー。私にはぜんっぜん響かない」

「なまえはお子様だからなあ」

駐車し終わって私の頭をぽんぽんと撫でる神永に、マジでこいつはどうしてしまったんだろうとちょっと妙な気分になった。いつもは全然こんなことないのに今日の神永は所謂女子ウケのいい行動ばかり取っている。

「今日ちょっと神永変だ」

「あのなー……俺だって色々演出してーの。分かれよ」

神永は呆気に取られている私にデコピンして悪戯っぽく笑った。
私は神永の演出したがり癖が可愛らしくて、抱き締めたくなる。

―*―*―*―

神永と私は存外子どもっぽく遊園地を楽しんだ。
神永は入園した時から被り物が欲しいと言いだして、15分くらいかけて猫耳のカチューシャを選んだ。
私はそういうの苦手だったから、買わずにいたらレジから帰ってきた彼の手にはなぜか猫耳が二つ握られていてそこからまた10分くらい付ける付けないで攻防戦が始まった。
結局押し切られていい年をした大人が二人猫耳でパークを回ることになった。

キャラクターと写真を撮る時なんかも、神永は高校生みたいにはしゃいで満面の笑みで写るから、私もそれが楽しくて笑顔が弾ける。こんなに笑ったのは久しぶりだと思った。

神永はホラー系が好きだったから(女の子と理由なくくっついていられるからだ、どうせ)最初のアトラクションはホラーハウスに決まる。
もっと選択肢あるだろ、と思ったが神永が楽しそうなのでどうでもよかった。
ホラーハウスは中々精巧に作りこまれていてビビった私が神永の腕に最初から最後まで縋りついていた。
それにも拘らず恐がらせ屋が出てきた時に逃げようとして曲げてはいけない方向に神永の腕を曲げてしまったせいで彼は何度か腕を脱臼しかけてしまい、後で物凄いネチネチと嫌味を言われた。
これについては凄く申し訳ない。

でも神永はホラーに強いくせにこの地域で最速を謳うジェットコースターに乗る前なんかは結構ビビっていたから面白かった。
ただし乗った後に大騒ぎしたのは私の方だったから(だって内臓出そうだった)、彼はそれをネタに私をからかう。

「お前ビビりすぎだよ。ぜーんぜん恐くなかったじゃんかよ」

「はあ?乗る前あんなにビビってたのはどこの誰よ」

「そんな奴いたかー?」

「ふふん。全部録音してるよ!明日三好くんに聞かせてやる!!ざまーみろ!」

「はあ!?ちょ、お前ふざけんな!」

ぎゃあぎゃあと言い合う私たちはさぞ滑稽だったろう。
家族連れなんかは何となく暖かい目で私たちを見ているのが分かる。
かなり恥ずかしかった。
でも、いつかあの家族連れみたいに、神永とここに来れたらいいな、なんて柄にもなく思った。
恥ずかしいから神永には絶対に言わない。

だけれども私が少しイラっとしたのは神永の目が美人な女の子、可愛い女の子、とにかくありとあらゆる女の子を片っ端から目で追いまくることだ。
気付いてないとでも思っているのだろうか。だとしたら舐められたものだ。
勿論普段から彼の「悪癖」には慣れっこで、それが治しようのないものであることは知っているので傷つきはしない。
それでもあんまり神永があちこちの女の子を目で追ってそのあまりの節操のなさがうざいからコーヒーカップにのった時に乗っていたコーヒーカップを思い切り回してやった。

ぐるぐると回るカップに神永も私も笑った。
何が起きても神永といると楽しく感じたのだ。

結果的に二人でグロッキー状態になったけれど。

「お前、ほんと、ふざけんなよな……」

「神永こそ、馬鹿じゃないの……」

よろよろとお互い青い顔でベンチに倒れ込んでせり上がってくるものを何とか飲み込む。
最初はお仕置きのつもりだったのに、途中から神永が悪乗りしてきて私たちのカップはその回の最速カップになったのだ。
降りる時係員の人からも生暖かい目で見られて恥ずかしい。
いい大人がコーヒーカップではしゃぎ回って馬鹿みたいで二人で顔を見合わせて笑った。

「神永女の子見過ぎ」

「何言ってんだよ。可愛い子はとりあえず見とくのは常識だろ?」

「うわー引いた、ドン引きだよ。私というものがありながら」

「何?嫉妬してくれんの?可愛い奴だよなあ、お前も」

にやにやと私の肩を引き寄せる神永の顔面を掌で押し返して身体を離す。
嫉妬していないと言ったら嘘になる。誰だってデートの時くらい自分だけを見ていてほしいと思うのは欲張りなことじゃあないだろう。
でもそんなこと絶対に知られたくない。
知られたら最後、神永という男は永遠にそのネタで私をからかい倒すだろうから。

「違うよ!何言ってんの!他の女の子に失礼だって言ってるの!」

「お前時々俺への当たり強くない?……でもさあ、」

「何よ」

唇を尖らせる私に神永は笑った。
普段の調子の良い笑い方じゃなくて、もっと、じんわりと心を温めるような笑い方だった。
私が辛くて苦しくて悲しくてどうしようもない時に抱き締めて「大丈夫」と言ってくれる神永の笑顔だ。

「俺が一番見てるのはなまえって気付いてた?」

にやりと気障ったらしく笑う神永に眩暈がする。
私の扱い方できっと彼の右に出る者はいない。

「……馬鹿」

「その馬鹿のことが大好きなくせに」

私のことを全て分かったように肩を抱いて、彼は私の目元に唇を落とす。

「人前で恥ずかしいなあ!もう!」

素直になれずに目線を反らした私のことを神永はきっと笑って見ている。