彼女からの手紙 三

拝啓、白石由竹さま

盛夏の候、白石さまにおかれましてはいかがお過ごしでしょう。先日はお手紙のお返事をありがとうございました。わたくしの絵が少しでも白石さまの慰めになったのであれば幸いでございます。もし宜しければまたお花の絵をお送り致しますわ。あの絵に描いたお花は金鳳花と山桜で、どちらも屋敷の庭に咲いていた物です。

白石さまは外の世界に焦がれていらっしゃるのかしら。脱獄は悪い事かも知れませんが、外の世界に焦がれるお気持ちは何となく、分かる気が致します。わたくしはいつも屋敷の庭か自室で絵を描いています。それどころか屋敷から出た事も殆どありません。それは父の言い付けだからです。わたくしは生まれた時から身体が弱くて今も時々そうなってしまいます。父はきっとわたくしを心配してくれているのだろう事は分かっています。でも時々、わたくしは屋敷を抜け出して自由に街を歩いてみたいと思ってしまうのです。甘えた娘だとお思いでしょう。それでも病で臥せっている時など特に考えてしまいます。一日だけでも自由に街を歩けたら、と。

つまらない愚痴ばかりで本当に申し訳ありません。もしご迷惑なようでしたらこの文通もこれでお仕舞いに致します。

暑熱耐え難き時節、夏風邪など召されませぬようご自愛ください。

かしこ

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