土地の権利書を見つけたものの、残り一万貫の金塊の行方が分からない。それでも遂に鶴見は追い付いて来て、一行に攻撃を加える。
永倉が一時を稼ぐのを頼みに、彼らは僅かな時間も諦める事なくひたすらに地面を掘り返していた。エコリアチもひたすらに鋤を振るい、指先の感触を頼りに探すべき場所を探した。
「土方さん!」
不意に門倉が顔を見せるたのを、エコリアチは振り返った。一陣の風が吹き入って、彼は目を瞑った。急に外の光が入って来て、とても眩しく感じたのだ。思えば随分、暗い場所にいたような気がする。
「手筈通りで、良いんですね?」
エコリアチには解す事の能わない話をした彼らは、何もかも分かっているとばかりに動き出した。己も己の作業に戻ろうと鋤を握り直したエコリアチだったが、突然に土方が彼の名を読んだ。
「なんだ?土方ニシパ」
「エコリアチ、命令だ。門倉を追え。奴のやる事を、必ず成功させろ」
言葉少なだったが、その声と表情は彼への信頼を示していた。そしてそれは彼が望んでいた事であった。
「……!ははっ、初めてあんたに命令された!了解だ、必ず遂行する!」
身を翻して駆けて行くエコリアチは、笑っていた。すれ違い様のその顔が、ナマエの目に鮮明に焼き付いた。子供のような笑顔を、ナマエは生涯忘れなかった。その時はまだ、知らなかった事だけれど。
「門倉ッ」
尋常では無い足の速さであっという間に馬に追いついた(「嘘だろ?全力疾走の馬だぜ?」)エコリアチは軽い身のこなしで門倉の尻馬に飛び乗る。
「エコリアチ、オメェなんで……」
「土方ニシパの命令だ。あんたのやる事を必ず成功させろとよ」
不敵に笑ったエコリアチだったけれど、すぐに子供のように無邪気に笑い声を上げた。
「ははっ、不謹慎だが、俺は今楽しくて仕方がない。全て俺が選択して、俺の意思でここに来たんだ。俺の命を存分に使ってくれ。ここで死んだって、悔いは無い」
憑き物の落ちたようなエコリアチの顔に、門倉は何か言おうと思ったけれど気の利いた言葉が出ずに押し黙った。そして四人は永倉と合流して、辿り着く。回天丸の主砲の隠し場所に。
***
時は前後して、アシリパたちの方である。門倉の来訪が期せずして、土方に新たな可能性を持ち込んだ。金塊の本当の隠し場所を。
指示された場所を爪が割れるのも構わずに掘り進めるナマエの指先に何か、今までとは異なる感触が触れる。弾かれるように手を引いたナマエに、周囲も気付いたらしい。鋤で丁寧に土を取り除くとそこには井戸の蓋が埋まっていた。
「馬用の井戸の蓋だ」
恐る恐る蓋を取り外し、底を覗き込むナマエ。井戸の底にある物を見定めようと目を細める。
「何だろう……。袋がいっぱい。……とりあえず、危険は無さそう、かな」
「降りてみよう」
杉元が降り、アシリパが降り、ナマエも呼ばれて下に降りた。触れた袋はゴツゴツして硬い感触だった。
「上で見てみよう。牛山のダンナ、引き上げろ」
「何だよ!俺にも見せろよ!」
「わあっ!?」
辛抱堪らない白石が飛び込んで来て、ナマエの目の前に落ちて来る。介抱しようとナマエが彼を抱き起こそうとした時だった。
「…………うわあ……!」
さらさらと綺麗な音が聞こえた。綺羅綺羅と眩い煌めきが見えた。小さな欠片が沢山落ちてきて、ナマエの掌に、足下に転がった。
それはとても美しい光景だった。まるで黄金の雨の中、彼らはただ、その光景に魅入っていた。誰ともなく呟く。
「これが、金塊……」
自然と笑顔が溢れた。それは皆、同じだったらしい。声を上げて笑う。眩しくてナマエは目を瞑った。金塊が眩しくて、視界が滲んで仕方なかったから。
「遂に。……遂に、俺たちで見つけちゃったね、金塊」
杉元の言葉に頷いた。アシリパも白石も、勿論ナマエも。
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