それは証にも似た

久し振りに、床から起き上がった私は束の間の外の風を浴びて、幾分か快い気持ちで家の周りを散歩していた。姉はついて行くと言ったが私から断った。私だってたまには一人でいたい。

「彼」に会ったのは偶然だった。家までの道を戻ろうとしていた時だった。病負けした身体は少しの運動でも息が上がってしまって本当に忌々しいと思いながら、私は家路を急いでいたのだ。遅くなればまた母親になんのかのと言われてしまうから。

「あ」

「……あ」

向こうから歩いてくる「彼」に、「基ちゃん」に気付いた私が隠れるよりも先に、「基ちゃん」は私を視認して歩み寄ってきた。今更逃げるのも可笑しいし、仕方なくその場に突っ立って彼が私に歩み寄るのを待った。少しだけ、緊張した。今までも、私と姉さんを間違えて、揶揄いの対象にする近所の子供はいた。でも、それが「私」だと知る度に、彼らは詰まらなさそうに去っていくのだ。まるで、私には用は無いとでも言うかのように。

「基ちゃん」は私に近寄って私の顔を見て、それから少し目許を緩ませた、ような気がした。彼も姉さんと私を見間違えているのだろうか。

「もう調子は良いのか」

「え……?」

「お前の姉さんが心配していた」

阿呆のような返事しか返せなかったのは「基ちゃん」が私の心配をしたからではない。私と姉さんを「見分けた」からだ。まるで印か何かでもついているかのように、息をするようにごく自然に。

「何で、」

「うん?」

「両親だって、姉さんと私を見分けられないのに……」

俯き気味にそういった私に「基ちゃん」はただ苦笑していた。きっと私に言うには照れ臭かったのだろう。だったら私が言おう。姉さんの話をした時、「基ちゃん」の瞳に宿る優しい色。手に負えない乱暴者が唯一心を許せる相手が姉さんなのだ。何が二人を引き合わせたのか、私は知らない、でも。

それは私が決して持ち得ない、持つ事を許されない二人だけの共通項で、私はそれを遠くから羨むだけなのだと、私は悟った。

たった一人に望まれる姉さんが強烈に羨ましくて、憎らしかった。

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