十まで生きぬと誰が言った

幼い頃から病弱で、医者は十まで生きぬと言った。それは私に課された宿命であり呪い。母の胎の中で私は私の写し身に生きる力を奪われたのだと皆が口々に言った。私はその事について何事かを思わない訳では無かったが、言っても詮無い事なのは自明の理であろう。しかしながら幼い頃から私は二月と床を離れた事が無かった。遊びたい盛りの子供が病の為に、いつ終わるとも知れぬ静養を余儀なくされる事がどれ程の物か、きっとお前は知らぬだろう。私は何度もそう言ってやりたくなった。私の写し身に。私の片割れ、外見ばかり似通っていく、私の双子の姉に。
私と私の姉は外見ばかり本当によく似ていた。双子というのだからそれは当然なのかもしれないが、周囲の者が困惑するくらいにはよく似ていた。その実中身は似ていないのだから見分けるのは容易いのだろうか。だが私の周囲に私たちの事を見分けられる人間などいなかった。
姉は朗らかで、良く笑う心根の美しい人だった。私とは正反対の、美しい、人。私は世の中全てを嫌悪するこの世の可愛らしさからは程遠い女だった。でもそれを病のせいに、ひいては私の生気を吸い取ったという姉のせいにする程には私は卑怯には成り切れなかった。これは私の心根の問題で、誰も悪くない。誰も悪くないからこそ苦しかった。
十まで生きぬと言われたこの身ではあったけれど、大方の予想を外して私は十を過ぎても死ぬ事はなかった。家族は安堵したのだろうか、それとも落胆したのだろうか。私などという重荷を背負って。唯一姉だけは夜毎熱に浮かされる私に付き切りで看病し、死なずに迎えた朝を祝福してくれた。心から。
嗚呼何て美しい姉妹愛かと何も知らない大人たちは言った。姉もきっと打算から私の看病をした訳ではない。私にそんな価値は無い。それでも何も知らない大人たちに私は唾棄したい気持ちで一杯だった。何も知らないで。私がどんな気持ちでいるのか何も知らないで。まともに生まれた者から受ける施しがどれ程私を惨めにさせるかも知らないで。

姉が寝物語に私に聞かせる外の世界に、私がどれ程焦がれたかも知らないで。

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